2019.10.19-2020.02.24
GREY CUBE
連続企画「インターメディアテク博物誌シリーズ」の第五回として、『十九世紀ミラビリア博物誌――ミスター・ラウドンの蒐集室より』を開催することになりました。
銀行家ジョージ・ラウドン氏は、本業の傍ら欧州各国の文化施設に有形無形の支援を続ける一方、一九七〇年代末から現代美術の蒐集で先見の明を披瀝してきました。また英国を発信源とする文化芸術活動の良き理解者、先導者としてもつとに知られています。ラウドン氏は、ボヘミア生まれの標本師ブラシュカ父子が制作した十九世紀ガラス標本の見事さに衝撃を受けたと言われます。以来、蒐集対象として関心を寄せるようになったのが、近代科学の教育遺産だったのです。フランス人オズーの解剖学標本、双頭猫の剥製標本、中国の観相学標本、イタリアの蝋製教材、インド、北米、南米、中欧ほか各地の自然史標本群、素材も多種多様な十九世紀科学教材が含まれており、明治初期に小石川植物園の画工加藤竹齋が制作した「木材扁額」、幕末の『魚蟲類図鑑』、天球儀と平天儀のセットなど、里帰り品を含む五十点の稀少史料が、今回日本へ貸し出されることになったのです。ラウドン氏は十九世紀科学を「過去」のものとして懐旧的な眼差しで眺め返すというのでなく、わたしたちが「いま」を生きている現代の価値体系のなかで、今日のデザイン感覚に照らしつつ、再活性化させてみせようとしています。時代の流れのなかで忘れ去られようとしている学術遺産をあらたな審美的価値の発掘へつなげようとする蒐集家の発想は、現代のミュージアムが課題として取り組まねばならない問題を、一歩も二歩も先駆けていると言うことができます。
主催 東京大学総合研究博物館