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特別公開『渡邊嘉一ゆかりの記念品銀製小箱――日本人工学者とスコットランドの絆』

2018.10.16-2018.11.18
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 わが国の工学分野の発展に寄与した人物とその仕事を手がかりに、日本の近代化プロセスを多角的に読み解く、シンポジウム『工学主義と近代日本』(2018年11月17日)の開催に合わせ、日本土木史の父と称され、近代日本の工学者として重要な足跡を残した渡邊嘉一ゆかりの銀製小箱を展示します。
 渡邊嘉一(1858-1932[安政5-昭和7])は、東京大学工学部の前身の一つにあたる工部大学校土木科に学び、1883(明治16)年に同校を首席で卒業しました。卒業後は工部省に技師として入り、鉄道局勤務となりましたが、1884(明治17)年には工部省を辞してスコットランドのグラスゴー大学に留学し、ここでも土木工学を専攻しました。1886年、同大学を卒業した後は、当時の英国建設業界で次々に大規模プロジェクトを引き受けていたジョン・ファウラーとベンジャミン・ベイカーの事務所に技師として迎えられ、19世紀英国でも特に難プロジェクトとして知られたフォース橋の建設工事監督係を務めました。8年にわたる工事により1890年に竣功するフォース橋は、スコットランドの首都エディンバラ北のフォース湾にかかる全長2,529メートルの鉄道用鉄橋で、カンチレバー式(片持ち梁)という新たなデザインが導入されたものでした。渡邊はこのカンチレバーの原理を説明するための写真中央にその姿を残しており、この写真は2007年発行のスコットランド20ポンド紙幣の図案に用いられたことでも有名です。フォース橋はその歴史的産業遺産としての価値により、2015年にユネスコ世界遺産に登録されています。
 渡邊は工事が完了する2年前にスコットランドを離れ、彼の知識や技術、そしてスコットランドで培った経験を必要とした日本に戻り、日本初期の鉄道建設に貢献しました。さらに渡邊は土木学会設立に参画したほか、さまざまな会社の社長を歴任し、鉄道業界のみならず、日本の学会や産業界で幅広く活躍しました。
 この銀製小箱は、底面の刻印から、渡邊が東洋電機製造株式会社の初代社長として、会社の設立のために技術提携を行った、世界的に名高い電機メーカーである英国ディッカー社(1854年スコットランド・グラスゴーにて創業)役員のウォルター・ラザフォード氏に宛て、1918(大正7)年に会社設立記念として贈った記念品であることがわかっています。東洋電機製造は、それまで外国製品の輸入に頼っていた、鉄道の主要電気機器の国産化に成功し、専門メーカーとして日本の発展に大きく寄与することになりました。また、外国人向けの煙草入れや象嵌の額など、質の高い銀製贈答品の制作販売を手掛けた宮本商行(1880[明治13]年創業)製の本小箱の蓋部分には、富山・高岡の金工師である竹田竹義の銘の入った金属彫刻が施されています。現在、竹田の手になるいくつかの工芸作品は、高岡市美術館のコレクションに見ることができます。柴を背負って歩く人物と山村の風景が描かれた、この日本の伝統工芸品としての丁寧な佇まいからは、渡邊嘉一が自身の工学者としての歩みにとって重要な関係性をもっていたスコットランドに対し、日本人として感謝の意を伝えようとする思いを感じることができるでしょう。
 本展示品は、数年前に英国のオークションにて現在の所有者であるアレクサンドラ・オグルソープ氏が入手したもので、刻印にある1918年からちょうど100年の歳月を越えて日本に里帰りし、ここに展示されることになりました。当館での特別公開は、アレクサンドラ・オグルソープ氏およびチャールズ・オグルソープ氏のご厚意により実現しました。またこの機会に、当館の新規収蔵品である、工部大学校の製図用具を合わせて公開いたします。

主催 東京大学総合研究博物館


【関連イベント】
シンポジウム『工学主義と近代日本』
2018年11月17日(土)14:00−17:00
インターメディアテク2階ACADEMIA(レクチャーシアター)
http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/id/IMT0173
*本シンポジウムでは、マイルズ・オグルソープ氏(ヒストリック・エンヴァイロメント・スコットランド/産業遺産)によるレクチャー「スコットランドと近代日本とのつながり――渡邊嘉一の事例」を聞くことができます。

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