2014.06.07-2014.10.05
FIRST SIGHT
本特別展示は、現代社会において大衆の人気を博した「神話的イコン」が、宝飾、アート、デザイン、雑誌、映画、モードのなかでどのように展開し、戦後の大量消費文化の形成に寄与してきたか、跡づけようとするものです。
20世紀における複製技術の発達、そして戦後の放送ネットワークの発展に伴い、流行の有名人の肖像はかつての神像のように世界的な規模で氾濫しています。映画や写真を介する複製イメージの圧倒的な普及によって、その人物たちは「スーパースター」になり、伝説化されました。しかし、その虚像が増えれば増えるほど、スターたちの存在自体は限りなく虚構に近い立場に置かれることになります。そこで、スターたちとその伝説化された虚像を唯一結びつけるのが、彼らと関係をもつ物性的な「モノ」です。ジョー・ディマジオとマリリン・モンローが日本を訪れたさい、ディマジオが名宝石店ミキモトで購入し、モンローに贈った豪華な真珠ネックレスをはじめ、本展示では「イコン」とその虚像を結びつける「モノ」とに注目し、戦後ポップ時代の遺産を集わせてみたいと考えます。
本展で紹介する、ポップアートの代表者アンディ・ウォーホルが手がけた雑誌『インタビュー』に見られるように、現代の「イコン」としての著名人の姿が崇高なアートの神話と大衆の消費対象という文脈のはざまで、一種のアイロニーをもって表現されました。一方、大量消費社会の誕生とともに、もはや人ではなく、「もの」自体がイコン的なステータスを確立します。ウォーホルもキャンベル・スープの缶などをモチーフにした1960年代のよく知られた作品シリーズに明らかなように、この変化と無縁ではありませんでした。本展では、この興味深い事象の代表的なアート作品として、メーソン・ウィリアムスによる、長さ10メートル超の『バス』(1967年作)を展示いたします。アメリカの象徴的な交通手段、「グレイハウンド・バス」のイメージを原寸大で印刷したウィットに富む大胆な作品からは、ありふれた「モノ」を非常識なかたちで現すという手法によって、見る者は「イコン」と「イメージ」の関係に一種の違和感を感じさせられるでしょう。
東京大学コレクションにも、神話的な存在を確立した学者に由来するモノが多く残されています。その中でも、同学理学部旧一号館の「伝アインシュタイン・エレベーター」は興味深い伝説を纏ったもののひとつです。このエレベーターは、20世紀科学の代表者としてもっとも人気を集めたアルベルト・アインシュタインが1922年に東京大学を訪れて以来、一般相対性理論提唱者の来日の記憶と結びつけられてきました。学問のスーパースターのイメージを伝承してきたこのエレベーターの部材をインターメディアテク内に新たに設営し、一般に向け初公開いたします。
古代の神像から現在のデジタル画像まで、とらえどころのない遠い存在に対し、人間は常にそれを具象化し、「イメージ」や「代用品」を介してそれを所有しようとしてきました。本展示は、イメージの歴史においてもっとも著しい転換期であった20世紀に注目し、その遺産を再考する機会になるでしょう。
主 催:東京大学総合研究博物館
協 力:株式会社ミキモト
協 賛:Champagne Piper Heidsieck
写 真:マリリン・モンロー旧蔵真珠ネックレス /ミキモトアメリカ所蔵