2017.12.12-2018.04.08
BIS
戦後東京の復興と発展は、新聞を主とする報道写真を通じて記録された。ところが1960年代から70年代に亘って、写真のあらゆる可能性を活かした撮影方法が新たな東京像を描きはじめた。大胆なフレーミング、荒い粒子、ブレ、外れたフォーカス、極端なコントラストが目立つ写真がカメラ誌や週刊誌のグラビア特集を飾り、被写体の物質性を強調しつつその抽象的なパターンを表した。都市はもはや、様々な出来事が起きる舞台ではなく、写真家によってひとつのテクスチュアとして捉えられる時空間となった。ある情景を記録することに徹した従来のルポ写真に対し、新しい写真家は風景を見つめ、そこに具現化された社会情勢を見出し、突破口を求め、積極的な姿勢で街に目を向けた。これは同時に、写真の可能性に対する挑戦でもあった。ニュートラルな記録媒体として認知されていた写真技術を再構築し、その物質性と表現力を強調し、新たな役割を持たせるきっかけにもなった。東京の混沌とした風景はしばしば、この試みの対象となった。いまや美術館の戦後コレクションに欠かせない日本写真のプリントや写真集。その多くの名作は雑誌のグラビア特集や連載としてはじめて公開された。ここでは、いわば一次資料としての定期刊行物を中心に、モノクロームの誌上に広がる、ざらざらした「東京のテクスチュア」を抽出する。
連続展示「東京モザイク」
2020年オリンピック・パラリンピックを前に、「東京」のアイデンティティや魅力について、世界に対し改めて発信する必要性があります。しかし、ここに掲げられる「東京」は、多種多様な記号集合体であり、具体的なイメージに固定されたものではありません。連続展示「東京モザイク」では、東京の渾然としたヴィジュアル・アイデンティティを捉えるべく、インターメディアテク小展示スペース「BIS」に特設コーナーを設け、各回で異なる「20世紀の東京像」をフィーチャーします。
各種地図、都市計画書、行政報告書、デザインマニュアル、各種報道、宣伝広告、海外向けパンフレット、観光ガイド、切手など、広範囲に亘る「東京」関連資料を新しい観点から紹介することによって、国内外のヴィジュアル・コミュニケーション手段を介して発信されてきた「東京」のイメージの解読を試みてみたいと考えます。都市計画や宣伝方法を規定する公的資料のみならず、個人の表現者や民間組織が生み出してきた珍しい一時的印刷物(エフェメラ類)まで包括することによって、「理想都市東京」と「東京の実相」を対照し、現在まで引き継がれているグラフィックデザインが、「東京」をいかに形付け、定型に纏め、時には美化し象徴化してきたか、これを具体例に基づきながら検証していきたいと考えます。
主 催:東京大学総合研究博物館
研究助成:DNP文化振興財団