神奈川県大磯の海岸には夏の朝夕、アオバトの群れが見られる。数十羽の群れが山側から飛来すると海上を旋回し、岩場に降りるのだ。目的は、海水を飲むことである。日本の数カ所で確認されているこの不思議な行動は、ミネラルバランスの調整ためと言われている。アオバトは果実とドングリが主食で、動物質の餌をほとんど食べない。その結果、カリウムに対してナトリウムの摂取量が少なすぎるため、海水(塩、つまり塩化ナトリウムが豊富だ)を飲むとする説である。観察していると彼らは波を被る場所に近づき、波が引いた瞬間を狙って、取り残された海水を飲んでいる。時には次の波を被って慌てて飛ぶ。あるいは、侵食によってできた穴に溜まった海水を飲む。時には海面に首を伸ばし、海水を直に飲んでいることもある。非常に興味深い行動だが、関東一円のアオバトが皆、ここで海水を飲むわけでもないだろう。あるいは、そんなに大事な行動ならあちこちの海岸で見られてもいいはずでは? やはり不思議な行動なのである。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Hajime Matsubara