JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

ハンガー窃盗犯
Raiders of the Lost Hanger

 カラスの営巣の季節である。都市部のカラスはしばしば、針金などの人工物を巣材に用いるが、中でもよく使われるのがハンガーだ。巣に使われているのはよく見るのだが、盗み出す瞬間を目撃することは意外に少ない。このハシブトガラスはマンションのベランダにヒョイと止まり、じっと下を覗き込むと姿を消し、再び姿を見せた時はハンガーをくわえていた。おそらくベランダに床置き型の物干しがあったのだろう。くわえて来た時は持ちやすいよう、ハンガーの途中の凹部をくわえていたが、一度置いてくわえなおし、ハンガーの首もと部分をくわえた。これがもっともバランスよく持ち運べる位置なのだ。カラスがハンガーを運んで飛んでいる時は必ずここをくわえている。カラスはハンガーをくわえたまましばらく辺りを窺うと、さっと飛び立って旋回し、マンションの後方へ飛び去った。追跡すると案の定、そこには作りかけの巣があった。ごっそりとハンガーが積み上げられている。どうやらこのカラスはハンガー窃盗の常習犯のようだ。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Hajime Matsubara

コラム一覧に戻る