バンという鳥がいる。水の上を泳いでいるのでカモのように見えるが、クイナの仲間である。日本で「バン」と付く鳥にはバンとオオバンがおり、どちらも真っ黒でよく似ているが、属が違うので系統的には少し違う。バンは嘴から額(額板)が赤、オオバンは白なので、そこを見れば間違う恐れはない。近年、オオバンが急に増え、水辺に行けば必ず見られる鳥になった感がある。一方のバンはめっきり見る機会が減った。かつてはオオバンとコバン(大鷭、小鷭)と呼んでいたようで、IMTにある古い標本にも「コバン」と記されたものがある。どこかの時点で、大小しかないなら「バン」と「大きいバン」と名付けた方がシンプルだ、ということになったのだろう。実際、サイズ差はかなりなものだ。バンは全長せいぜい35センチでハトほど、対してオオバンは40センチほどある上、体のボリューム感が全然違う。写真の手前はハシビロガモだが、オオバンはカモ類に匹敵するサイズである。この大柄な体でスイスイ泳ぎ、水に潜り、ヨシ原をかいくぐって歩き回り、走り、飛ぶ、奇妙な鳥たちだ。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Hajime Matsubara