ネコ特有の匂いの原因の一つにコーキシンというタンパク質がある。この物質を発見したのは日本人で、名称の理由は「猫は好奇心の強い動物だから」だそうだ。人間は猫以上に好奇心の強い動物だと思うが(でなければ博物館など成立しない)、観察している限り、カラスも大概だと思う。彼らは隙間や穴がとにかく気になるらしく、じーっと覗き込んでいることがしばしばある。そういった場所には昆虫など獲物が潜んでいることはあり得る。手に入れた餌を隠せる場所を探しておくのも意味があるだろうし、ひょっとしたら誰かがその隙間に貯食していて、餌を盗めるかもしれない。何より、そういった面倒な思考や計画抜きに「これなーに?」と目を止めさせ、探索行動を誘発するトリガーとして、好奇心は有効ではある。複雑な演算機能を与えるより、脳への負担が小さいだろうからだ。とはいえ、首をひねってスポットライトを検分するハシブトガラスには笑いそうになるし、「あの行動はつまりこういうことで」と書いてしまうのも、動物に備わった好奇心のなせる技である。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Hajime Matsubara