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HAGAKI
研究者コラム

東京大学の画工――佐々木三六

 1885年頃の東京大学理学部生物学科で画工をつとめた一人に洋画家・佐々木三六(1860-1928)がいる。兄は東京帝大の動物学者・佐々木忠次郎として知られる。三六は1875年にイタリアに留学、トリノ王立美術学校にて油彩画を学んだ。その三六が東大画工をつとめた痕跡が、『植物学雑誌』第1巻第5号に載る本図である(東京大学総合研究博物館蔵)。海藻学者・岡村金太郎によると、この図は1887年に生物学科教職員を含む三十人余が伊豆七島を巡航した際に制作されたもので、岡村は「此時伊豆の大島で、Martensia australisを大久保君〔大久保三郎〕が採つたのを、其頃植物学室の画家であつた佐々木三六君が写生して居たのを、自分は見て知つて居るが、実に立派なもので、今でも教室に保存せられて居り、其図は植物学雑誌第一巻第五号に載つて居る」としている(「青長屋―本邦生物学側面史」『科学知識』1922年8月号)。教室に保存された三六の描いた海藻図は、学術調査上の記録であると同時に、伊豆七島巡航の懐かしい想い出としても記憶されたことだろう。

藏田愛子(東京大学総合研究博物館研究事業協力者)

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