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HAGAKI
研究者コラム

植物画

 数年前に東京大学総合研究博物館のバックヤードで約千枚の植物画がまとめて発見されている。各図には植物の全体図や花の拡大図、花式図などが描き込まれ、洋紙に水性絵具で丁寧な着色が施されている。中心となる制作時期は明治時代半ばと推定され、一部の図にはK.Watanabe(洋画家・渡部鍬太郎)や高屋肖哲(日本画家)の名前を確認することができる。明治時代の東京大学で作られた植物画としては、小石川植物園(東京大学大学院理学系研究科附属植物園)に残る植物画群がよく知られる。博物館で眠っていた植物画はおそらくその仲間で、東大植物学教室や小石川植物園を舞台とした植物研究の中で生み出されたと考えられる。これら明治時代の植物画は、日本植物学の痕跡を現在に伝える貴重な学術標本といえるだろう。そして、当時の画工や植物学者による植物表現の模索をうかがい知ることのできる格好の美術資料としても、大きな魅力をもっているはずである。

藏田愛子(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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