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HAGAKI
研究者コラム

休館日の小旅行

 ある日、ふと、誰もいないIMTの展示室を歩きたいと思い立ちオフィスを出た。その時のことを書いてみようと思う。最初に足を踏み入れたのはCOLONNADE2(ギャラリー2)、下の階の1番大きな展示空間であった。電気が消えており、普段と違う雰囲気を新鮮に感じた。来館者のいない状態で展示を観たことは何度もあるが、電気が点いていない中で歩き回ることはあまりなかったのである。COLONNADE2には大きな窓が並んでおり自然光が差し込んでいたため、暗くはなかった。骨格標本の間をゆっくりと歩く。標本たちは悠然と佇んでおり、まるで、ここは自分たちの縄張りだぞと言っているように見えた。大地球儀の方へと足を進めると、あたりが段々と暗くなってきた。ギメ・ルームが近づいてきたのである。ギメ・ルームは、IMTの中でも「驚異の部屋」の要素がひときわ色濃く出ている空間と言えるであろう。しかし、明かりのない状況下では、それが怖さに拍車をかけていた。鮮やかな緑の壁は闇に埋もれ、見慣れているはずの展示物は暗がりに沈み込んで輪郭がつかめず不気味であった。とそこに、ぼうっと白く浮かび上がるなにかが目に飛び込んできた。美しく優美に螺旋を描き、輝いているのかと錯覚するほどの存在感を放つそれは、クーズー角。私の今までの人生の中で、1番、クーズー角に魅せられた瞬間であった。クーズー角に励まされながらそそくさとギメ・ルームを回り、自然の光に満ちたCOLONNADE2へと戻る。さて次はどこへ行こうかと思った瞬間に電気が点いた。わずか十数分の小旅行は終了し、見慣れた風景が戻ってきた。それはまるで時計の針が再び動き出したかのような感覚で、しかし私は、いつもと違うIMTも結構好きだった・・・などと、思い返すのである。

※ギメ・ルーム・・・IMTの地図上でFIRST SIGHT(ギャラリー1)と記されている展示空間の通称。窓が壁で覆われており、自然光が入らない。
※クーズー角・・・クーズーはアフリカ東部から南部にかけて生息する大形のレイヨウ。この標本はクーズーの角の骨芯部分である。

秋篠宮眞子(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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