大学の授業はオンラインで行われた。オンデマンドではなくリアルタイム配信である。筆者が担当する教養前期の「空間デザイン実習」は、受講者が空間のデザインを考えて模型を制作する授業である。実習作業のオンライン化には不安もあったが、意外にも順調に進めることができた。むしろ双方向的かつ個別的な対応が必要な授業に適したスタイルかもしれない。課題の「次世代建築」のコンセプトを立案し、空間的造形物を設計し、模型として実体化する。このプロセスをどのようにフォローするか。デザインのように正解が一つではない課題では、他者の考え方を知ることも重要である。各学生は全員に対して中間/最終のプレゼンを行い、またエスキースに臨む。エスキースは学生と教員の1:1のデザイン面談であるが、今回はそれもオンラインで共有された。不慣れなペンタブレットで描画しながら、学生との対話を重ねていく。他の学生はその様子に触れつつ、自分の制作作業を進めていく。結果として受講者25人の作品が完成した。「次世代建築」の解釈には、今の時世への意識が垣間見える。行為の場所、建築の形式、空間の様相、環境の応答、動態の創出に関わる提案がみられた。さて、オンライン授業に課題がなかったわけではない。それは扱われる題材の「尺度と質感」の欠落である。模型や図面などのスケールが捉えにくく、マテリアリティが伝わらない。実体物に帰着する教育では致命的ともいえる。これはリモート化社会の時空間と身体性に関わる根本的な課題であろう。
松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)