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HAGAKI
研究者コラム

ワレモコウ(バラ科)

 植物画家・山田壽雄によるワレモコウの写生図(3階に展示中)の裏面には、「ワレモカウ 大正2. 9. 10 於高萩」との書付があり、山田が茨城県の高萩に出かけた際に描かれたものと推定できる。精密な図というよりは、対象の特徴を捉えて手早く描き留めたように見える。裏面の右隅には、「吾亦紅あはれや花のたぐひとも見えずわびしく秋の野に咲く」という歌が書き込まれている。山田自身がワレモコウをスケッチした際に詠んだものであろうか。「吾亦紅」とはワレモコウに漢字を当てた名であり、その名の由来には諸説あるそうだが、カタカナからはわからなかった哀愁のようなものを感じる。秋の赤い花は他に多くあれども、吾もまた、一見花にみえないかもしれないが紅の花をつけているのをお忘れなく、といったところだろうか。『ホトトギス』の俳人・高浜虚子は「吾も亦紅なりとひそやかに」とワレモコウを詠んでいるのが思い出される。虚子の句には短い言葉の凝縮具合に俳句や短歌の心得のない私でもさすがであると感じるものがあるが、裏面の歌も、植物学者を支えた植物画家である山田のスケッチを眺めながら味わってみると、「写生」の精神が素直に現れている気がして、なかなかに好感のもてる歌に思える。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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