京都鷹峯の太閤山荘に「擁翠亭」という茶室がある。寛永年間に加賀藩主・前田利常が京の金工師・後藤覚乗の屋敷に建てた草庵茶室で、設計は小堀遠州による。明治初期に解体された古材が140年ぶりに発見され、2015年に現在地に再建された。千利休の弟子・古田織部に学んだ遠州は、利休のわび茶の精神を継承しつつ、茶室の建築を新しい次元に引き上げた。それは「陰から陽へ」、「閉から開へ」の広がりを獲得することである。すなわちこの茶室は、人間と空間の多様な相互関係を包含している。擁翠亭は別名「十三窓席」と呼ばれ、大きさや高さが異なる十三の開口部がある。過日見学の機会をいただき、躙口から茶室の中に入り、三畳台目のやや暗めの室内に座した。やがて簾が外され、障子が開かれ、小襖が引かれると、空間の様相は劇的に変化していく。連子窓や下地窓ごしに庭園の翠(みどり)が見え、野趣に富んだ格子の抽象美が展開する。全開状態は通常の茶会のしつらえではない。しかし、この極小空間では、内部と外部を隔てるだけでなく、それらを個別につなぐことができる。モダニズム建築の透明性の先を行く、環境共生型建築としての繊細な振るまいを感じさせる。点前座は躙口の正面、茶室のほぼ中央部にあり、写真は点前座からの内観である。遠州がこの建築に込めた、開かれた世界観をみる思いがする。
松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)