一昨年から、カラス研究の一環としてドローンを飛ばしている。営巣条件の調査のためだ。ハシブトガラスは一般的に、巣を見られることを嫌う。そこで、「どの角度からなら見えるか、どの程度見えるか」を確認したかったのである。だが、カラスが巣を隠したがっているとすると、巣を狙ってくる外敵は地上だけにいるのではない。上空を飛ぶ猛禽や、枝伝いに樹上にやって来るテンやヘビなども相手だ。となると、地べたからの視点だけでは足りない。そこでドローンを導入し、あらゆる高さから見ることにしたのである。これを飛ばしてみると、発見しづらかった巣が上からは丸見えとか、逆に上空からはまったく見えない、といった例が出てきた。調査結果は悩ましいものだったが、カラスと同じ視点で世界を見るというのは、面白い経験である。彼らが飛ぶ高度からは、地上など取るに足りぬちっぽけなものにすぎず、遥か遠くまで一望にできるのだ。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)