JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

シロツメクサ(マメ科)

 宮沢賢治の短編作品『ポラーノの広場』にシロツメクサが出てくるのをご存じだろうか。モーリオ市の博物局で標本の採集や整理を受けもつ下級役人キューストが、少年ファゼーロと出会い、祭りが開催される伝説の場所「ポラーノの広場」を探すという話である。初めてキューストが「ポラーノの広場」を探しに行った夜に「つめくさ」(シロツメクサのこと)の「番号」を数える場面が出てくる。「なるほど一つ一つの花にはそう思えばそうというような小さな茶いろの算用数字みたいなものが書いてありました」。3階に展示中の、植物画家・山田壽雄の植物写生図のなかにあるシロツメクサは、小さな用紙の枠内に非常に緻密に描き込まれた着色画で、台紙に貼付されている。裏面には「明治45.6.」という書付があり、制作年代が確認できる。何か用途があって描かれた完成品のよう見えるが、それが何かはよくわかっていない。その「謎」のためだろうか、私には下部にある筆記体のローマ字「Shiro Tsume Kusa」の書付も、小さな用紙の枠内に収められている様も、何だか実際以上に特別に見えてきて、「ポラーノの広場」に行くために数える「番号」でも読み取れるのではないかという気がしてくる。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)

コラム一覧に戻る