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HAGAKI
研究者コラム

成長のデザイン

 小石川分館で特別展示『貝の建築学』を開催中である。佐々木猛智准教授の学術企画による展示で、筆者は展示デザインを担当した。世界各地で採集された貝殻標本400種以上を展示しており、なかでも佐々木研が作成した150個におよぶ「切断標本」の公開は前例のない試みである。貝殻は貝がみずから形成した住処であり、成長のための構成原理(=アーキテクチャ)を内包している。切断標本はその驚異の内部構造を見せてくれる。佐々木准教授によれば、貝殻の成長は「等角螺旋」と「付加成長」という2つの原理で説明できる。等角螺旋は螺旋の中心に対して一定の接線角度で拡大する形式であり、付加成長は殻の縁辺部に結晶を追加して成長する形式である。本展の会場設計においても「螺旋」のフォルムを採用している。展示室の既存柱の中心を通る螺旋の基準線をまず設定する。汎用性を高めるために曲線ではなく直線を組み合わせた多角形の螺旋として展示ケースを配列していく。螺旋の中心部では巻きが強く尖った貝類が、螺旋の末端部に向けて巻きが緩く平たい貝類が列品される。増殖でなく付加による成長は、建築の特性に通じるところがあり、「成長のデザイン」に多くの示唆を与えてくれる。建築家のル・コルビュジエは「無限連鎖美術館計画」を提案したが、四角い螺旋状の建築は付加成長を前提としていた。

松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)

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