5年前に訪れた金沢県立自然史資料館の収蔵庫にて、思いがけないものに遭遇した。思わずこれは何ですか?と質問する。現在の金沢大学にあたる旧制第四高等学校で使用されていた教育用物理実験機器だという。その形状といい、色といい、その不思議なものは、自然界における不思議を垣間見せる装置であった。そして5年後に展示を実現することができた。それが本展である。展示デザインは、質感や色彩、モノのフォルムと展示造作とを対比させるのが常套手段である。確かにこれらが真白い空間に置かれていれば、それだけで美しい展示であろうことは容易に想像できる。しかしあえて逆手にとった。モノを構成しているのは、いわゆる鉄、ガラス、木材といった素朴な素材であるのに加えて、人の手といくつもの時代を経た「ほこり」をまとっている。当時の高価で貴重な教材に、多くの学生は食い入るような眼差しで実験を見守ったであろう。故に哀愁を醸し出している。そこには本物の時間が血液のように流れているのである。それと同調するように錆びた鉄枠の台座、ガラス板、飴色の壁面が空間を構成する。当時、文化祭があったとすれば、資金も資材もない学生たちは、こんな展示をしたのではなかろうか。そんな後味が残ればよいと思う。
関岡裕之(東京大学総合研究博物館特任准教授)