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HAGAKI
研究者コラム

森の建築

 植物学の大場秀章東京大学名誉教授に小石川分館の建築博物教室でご講演をいただいた。『生物共生のアーキテクチャ −−多様な生き物と共生する建築を考える』と題し、共生という視点から建築のあり方を根本から問い直すお話しであった(→ご講演のハンドアウト)。人間社会が自然と対立するのではなく、ヒトが生物多様性の一員であることを再認識し、自然との共生の途を探ることを提唱された。大場先生は、森に還るにふさわしい地域作りとして、建築が森に散在する岩や石のようにみえる修景をイメージされている。今回のご講演に合わせて、住居の変遷を示すモバイル展示が制作された。時計回りに、森林、洞穴、始原の小屋、竪穴式住居、高床式倉庫、組積造建築、ドミノ・システム、緑化建築が並び、再び森につながる円環状の構成をなしている。屋根をかける(小屋)、床をはる(高床)、壁をたてる(組積)といった技術によって、人間は自然から空間を獲得した。それを閉鎖・拡大・集積することで人工環境を増やしてきた。このような「囲い・隔てる」という建築の従来の役割に対して、「開き・結ぶ」ことで空間とその境界のあり方を再考することが求められているのではないか。自己完結的ではない相互依存的なアーキテクチャはどのようなものか。それを考えさせられる示唆多きお話しであった。

松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)

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