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HAGAKI
研究者コラム

チャンディガール

 インドに行ったのは2000年である。脳裏に深く刻まれることの多い旅だった。到着地のニューデリーでは無方向的な交通のカオスに驚愕し、ヴァラナシでは日常的な生と死の共存に感じ入り、ジャイプルでは宇宙観察の精緻な造形に瞠目し、ジャイサルメールでは砂漠を臨む高密都市に胸躍らせた。当時も垣間見えた急速な変化の流れに、今ならば圧倒されるだろう。一方、北部の都市チャンディガールには、他所とは異なる存在感があった。インド・パキスタンの分離独立によって生まれたパンジャーブ州の新州都は、ル・コルビュジエによって1950年代に計画された。巨匠建築家が晩年を費やした作品群は、インターナショナルでありながらリージョナルであり、パーソナルな世界観に裏打ちされている。コルビュジエ自身が世界に示したモダニズムの方法論が、地域や環境との応答を経て変容したさまを空間体験できる場所といえようか。当館小石川分館では特別展示「チャンディガールのル・コルビュジエ」を開催中である。東京大学建築学科の千葉学研究室の監修により、同研究室が制作したチャンディガール中枢部の建築模型3点と、コルビュジエのスケッチが展示されている。並びたつ安田講堂の模型からスケールが推し測れるが、その空間の大きさと密度に現地で身震いしたことを思い出す。(展示は2月11日まで。写真の総合庁舎の模型は継続展示)

松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)

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