JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

改めて、謹賀新年。

 施設のオープンから丸五年が経過し、つつがなく六年目の春が迎えられることを、スタッフ一同で言祝ぎたい。光陰矢の如し、とはよく言ったものである。たしかに、過ぎ去りゆく時間の流れは捉え難い。とはいえ、その経過を可視化できないものだろうか、そのような考えに端を発して始められたプロジェクトがある。それは、長期に亘る「展示」が標本にどのようなダメージを与えるかという問いと通底し合う。たとえば油彩画の場合、長時間に亘る光の照射がいかなる経年変化を作品にもたらすか、それを光学的に実証してみせようとする試みである。高橋勝蔵の描いた医学部解剖学教室初代教授『田口和美像』は、学内に残された最古の公的肖像画と目される貴重な学術遺産であるが、画面の劣化が進み、保存上、危機的な状態にあった。開館時から展示されていたが、洗浄修復を経て、見事に生まれ変わった。この間の変容するさまを、カメラで定点観測し続けてきたのが松本文夫特任教授である。画面の表情の僅かな変化を定期的に記録し続けるには、多大な労力と忍耐が求められる。ミュージアムは、表立った、華やかな事業ばかりでなく、このような地道な活動にも支えられている。五年間の安定した運営の基盤もそこにある。この一年も、国内外の機関・個人から実に多くの支援と鞭撻を賜った。この場を借りて御礼申し上げるとともに、新たな気持ちで新年を迎えることのできる幸せを感じている。改めて、謹賀新年。

西野嘉章(インターメディアテク館長・東京大学総合研究博物館特任教授)

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