JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

石の想像界

 特別展示『石の想像界――アートとアーティファクトのはざまへ』がオープニングを迎えた。インターメディアテクの新しい試みとして、学術標本と現代美術作品とを組み合わせた実験展示である。美術史においてこれまでただの「材料」として扱われてきた石がなぜ、多くの現代美術作品の主題となり、またほぼ未加工の状態で作品に組み込まれるようになったのか。石の材質、かたちや模様に想像力が喚起された作家の作品を展示するだけではなく、人間の想像力を絶する、極めて長い時間性を有する「石」が人間の活動域に導入されていく過程を検証する展示である。この企画のひとつのアイコンとなるのが、前近代的な「驚異の部屋」の定番であった「廃墟大理石」(パエジナストーン)である。ロジェ・カイヨワの名著『石が書く』(1970年)をもって、パエジナストーンは石の美的鑑賞の中心的存在となる。自然の力で不随意的に生成される大理石の複雑な面に人間は必ず風景あるいは具象的なイメージを投影する。この想像力的原理が20世紀半ばの詩的表現に著しい影響を与えた。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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