旧東京中央郵便局のファサードのデザインは、簡明かつ精緻である。東京駅前に建つ中央郵便局としての安定感を確保しつつ、古典的意匠に依存しない清新な現代性を実現している。逓信省営繕課の吉田鉄郎による外観設計の特徴は、以下の三点に認めることができる。まず「垂直と水平の均衡」である。柱梁の構成において、垂直をわずかに優先して神殿のような柱型のパターンを出し、一方で上部を走る胴蛇腹や1階の肉厚壁によって水平の連続性も表現している。次に「部分の対称性の導入」である。北側の立面に配された大時計と中央玄関のように、建物の立面ごとに対称性を考慮したまとまりを与え、全体が単調な繰り返しになるのを回避している。最後に「建物の階高の漸減」である。断面図に示す通り、下階から上階に向けて階高を徐々に減らして立面を落ちつかせており、これは現業室・事務室・吏員室という機能配置に応じた合理的な対応でもある。入念な設計は細部にも及び、外壁面は二丁掛タイルと役物の割付によって埋めつくされる。吉田鉄郎のファサードのデザインは、ヨーロッパのモダニズムの理念と構法に由来するものだが、同時にそれは、日本的伝統の中で培われた構成と抽象の美を継承するものである。ブルーノ・タウトの絶賛の核心もそこにあるだろう。
松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)