遺伝子の本体をなすDNAは「二重らせん」の構造をもつ。らせん状の2本のヌクレオチド鎖が相補的結合をなし、片方の鎖を鋳型として新たな2本鎖を複製する。遺伝情報の継承と発現をにない、生命の連続性をもたらす根本の仕組みである。一方で二重らせんは、事例は少ないものの、人工物の構成原理にも採用されてきた。イタリアのサンパトリツィオの井戸では地下に降りる二重らせんの通路を設け、フランスのシャンボール城では城館中央に二重らせんの大階段を置く。これらの二重らせんは、上下の動線を交えることなく分離し、全体行程を連続した一つのシークエンスに仕立てている。その類例の中でも出色なのは、福島県にある旧正宗寺三匝堂(通称さざえ堂)であろう。六角形平面の塔状建物の内部には、二重らせんの斜路が組み込まれている。建物に入って右回りの斜路を上がり、頂上から左回りの斜路を降りて元に戻る。順路に沿って三十三観音が祀られており、上がって降りるだけで西国巡礼をしたことになる。すなわちここで二重らせんは、世界の縮図を表現する基本構造なのである。写真の模型は、教養学部前期課程の授業「空間デザイン実習」における学生の作品「KOMOREBI書房」(大島一武輝)である。さざえ堂の二重らせんにインスパイアされ、有機的な外壁と木漏れ日の光に特徴をもつ。
松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)