「鳥類写生図」(河辺華挙 編纂)のうちの一巻には、小鳥たちの動きを捉えるためのスケッチが集められている。ここに描かれた鳥は(想像で描いたのでなければ)全て生きた状態で観察されたはずだ。驚くべき事に、江戸末期から明治中期に描かれたにも関わらず、カナリア、サトウチョウ、ホンセイインコなど、外国産の飼い鳥も描かれている。どれほど貴重で高価であったことだろう。一つ、特に気になる鳥がある。体は黒く、頭は真っ白で、嘴と脚が赤い。画材が限られているので完全に天然色ではないかもしれないが、こんな色合いの鳥は日本にはいない。コムクドリかとも思ったが、どうも描きぶりが違う。これはシロガシラツグミの台湾亜種ではないか。この鳥は東南アジアの島嶼に住み、台湾亜種は頭が真っ白で特に美しい。今や希少になってしまったこの鳥も、はるか昔、日本まで運ばれて来て、絵師の家の縁側の鳥籠の中にいたのだろうか。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)