JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

サウンドレイヤー

 サウンドレイヤーとは、音による現実拡張の試みを多層的に展開する革新的なコンセプトと技術である。インターメディアテクでは、株式会社THDのアイディア提案と技術協力により、ミュージアムにおけるサウンドレイヤーの可能性を探求するプロジェクトを2017年7月から始動させた。来館者が専用アプリを入れたスマートフォンを持ってインターメディアテクの各展示エリアに入ると、コンテンツ――展示空間デザインについての音声解説、展示物や空間に合わせてカスタマイズされた音楽・音響等――が自動再生される。これら複数の音がレイヤー状に積み重なり、来館者一人一人がその時に聞きたいものを自由に選択できる。このような構想を実現させるためのシステム開発とコンテンツ制作が現在進行中である。通常、ミュージアムを訪れた人は、展示物を見る、あるいはその脇に付けられたキャプションを読むといった視覚をはたらかせる行為に注力する。従来のオーディオガイドがこの視覚的行為の補助的な役割を担ってきたのに対し、サウンドレイヤーは聴覚をメインの感覚器官とすることで、人々のミュージアム体験そのものを変革する。インターメディアテクを実験場として、人々の認識世界を音で変えるプロジェクト、聴覚分野の最先端テクノロジーを用いた「音のメディア芸術」と言ってもよい。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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