「コロナード」の什器に、キノコ標本が数点、並んでいる。一見、展示室に棲息しているのかと見間違うほどのリアリティを醸し出しているが、れっきとした人工物である。展示されている模型は、明治12年に初代山越長七が創業した山越工作所で作られたものである。使用されているムラージュ技法は、明治43年(1910)年頃、長男の山越良三(二代目山越長七)が、ウィーン大学で習得してきたものである。ムラージュ(日本語で鋳型の意)とは、蝋製模型のことで、雌型に蝋を流し込んで出来た立体物を彩色して作る。初代山越長七の方は紙製の人体模型を得意としていたという。したがって山越工作所では、紙製模型も蝋製模型もどちらも作れたはずである。蝋を選んだのは、本体から型をとれるという利点があったからなのかもしれないし、キノコの瑞々しさを再現するのに、紙より蝋の方が適していると考えたからなのかもしれない。ところで、あくまで個人的な感想だが、この写実的なキノコ模型、見て美しいとは感じるものの、美味しそうと感じないのが不思議である。もっとも、本模型はすべて毒キノコとのことである。
秋篠宮眞子(東京大学総合研究博物館特任研究員)