2017年5月より、ロンドンに滞在し研究活動をおこなっている。ヴィクトリア&アルバート美術館にて、イギリスにおける油性塗料と漆の比較研究をするためである。とりわけ、18世紀頃に、西洋で流行した「ジャパニング」と呼ばれる漆を模した油性塗料は興味深い。ロンドンでは調査に加え、日本から様々な材料を持ち込み、現地で調達した材料と合わせて、実験的な制作も進めている。この度、制作物の一つが同美術館にて開催される「Lustrous Surfaces」展に展示される事となった。本展覧会は、日本、中国、韓国おける漆器を含む作品の表層に着目した展覧会である。日本の風土に適した素材とも言える漆をイギリスで使用することに、多少の不安も感じつつも制作を進めたが、特に問題もなく乾燥する漆を見て、改めて素材の強さを実感している。まもなく滞在を終え日本に帰国する予定である。日本食が恋しくなる一方、いささか名残惜しい部分もある。
菊池敏正(東京大学総合研究博物館特任助教)