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「これは江戸切繪圖の展覧会ではない。」
ミシェル・フーコーの名言へよせつつ、東京大学および東京タワーで「都市」をテーマとした展覧会シリーズがスタートします。都市とはなにか、私たちはどう都市を感じるのか、異なる視点の専門家らがそれぞれの展覧会の企画をすすめています。その皮切りとして、東京大学総合研究博物館JPタワー学術文化総合ミュージアム「インターメディアテク」では、2024年3月6日より、絵図と未来地図から都市を切り取る特別展示を開催します。江戸切繪圖によって江戸の町の見方の変化を味わい、東京大学大学院情報学環の学生アーティストによる未来の地図、様々な映像によって、新しい都市の風景の切り取り方、都市に対する新しい視点を体験していただけます。なお、「都市」シリーズの他の展覧会については、最後に日程を挙げておりますのでご参照ください。
江戸切繪圖とは、江戸城下を地域ごとに、寺社名、地名、武家屋敷名などを記載した絵図です。最初に江戸の切絵図を板行したのは、吉文字屋(きちもんじゃ)で、宝暦5年(1755)から安永4年(1775)にかけて、8図を出版しました。このころの切絵図にはあまり多くの色は使われておらず、とても質素なものでしたが、江戸後期の尾張屋(おわりや)の板となると、色鮮やかな絵図が刊行されます。
吉文字屋以前は、江戸大繪圖と呼ばれるように江戸全体を一枚の絵図で表すのが主流でありました。元来、ある地域を描こうと考えた場合、その地域全体が一枚におさまるように描くのが、おおよその絵図の基本でした。もし情報量が一枚におさまらないのならば、紙面をどんどん大きくしていきます。江戸大繪圖にかぎらず、京大繪圖や、他の地方の様々な城下町絵図類には、とても大きなものが存在します。大きい絵図は、その都市の活気や、権力者の力を反映しているともいえます。
江戸切繪圖が切り分けられた地図となった理由には、その利便性ということもありますが、一方で、対象地域を描く視点が、江戸全体から、江戸の各地域へと移って行った証拠でもあります。それは、明治期以降の実測図でみられるような、経緯度線で切り分け、統一的な図葉の集合として地図を描くやりかたとはまた異なります。切絵図において切り出された地域は、その区切られた範囲に意味的を帯びています。『築地八丁堀 日本橋南繪圖』と言えば、やはり、そこに描かれているものは、八丁堀以外のなにものでもないのです。
江戸全体、江戸幕府を起点とした視点ではなく、街々の細部への関心、そこに住む人々、庶民、あるいは、そこにある、ひとつひとつの場所、名勝から、そこから、江戸全体への視点へと切り替わっています。「切る」という行為によって、江戸の見え方が変わったと言えます。
次のコーナーでは、江戸切繪圖の展示から打って変わって、最近のデジタルテクノロジーや映像で、視点の転換をはかる都市の見方を提案します。東京大学大学院情報学環学生アーティストの作品『kaleidomap』では、江戸切繪圖から一枚をとりだし、また、それとあわせて、表現・立場・製作者の異なるさまざまな本郷近辺の地図が、真っ白な立体模型で表現された地形というコモンスペースの上にコラージュされます。有限な空間に、共存しようとする人々のコンタクトが折り重なることによって、無色透明な空間が歴史・文化という主観性の色を帯びた空間=「場所」に変化します。場所性の問題という、計量地理学へ対峙する人文地理学のテーゼを彷彿とさせる作品です。
『AI「地図」』は、地図を学習した生成AI「Midjourney」が、「これが『都市』だ」と考えた地図と言えます。一見、都市として成立している地図のようですが、よく見ると、川のような青い線が途中から道路に変わるなど、現実の都市ではありえない構造がしばしばあらわれます。これを単なるAIの学習生成過程の誤謬として済ませていいのでしょうか。現実の都市機能は、現在の技術や社会制度の制約の中で実現可能な構造として成立しています。しかし、折々の歴史には、技術革新や制度の変更がおこり、その制約が消えてしまうことがあります。例えば、1863年、世界ではじめての地下鉄がロンドンに登場した時、川と道路が接続されているように、地上を走るものが地下に走るようになったと人々は感じたに違いありません。一方で、水陸両用車が一般的になった未来の都市では、川と道路が接続された構造は当たり前かもしれません。現在の「ありえない」が、どのような革新によって、制約を解かれるのか、また、現在ふつうであることが、かつてもふつうだったのか、『AI「地図」』をヒントに現在のあなたの住む街に当てはめて考えてみてはいかがでしょうか。
さて、展示のご観覧のあと、東京の街の只中へ出ていったときに、東京の町の見え方が変わっているかもしれません。
●展示内容
尾張屋板『江戸切繪圖』 18点
東京大学大学院情報学環学生アーティストによるハイブリッド地図作品
『kaleidomap』『AI「地図」』
都市を切り取る映像作品 多数
●基本情報
名 称:特別展示『都市 − ヱドキリエズ』
会 期: 2024年3月6日(水)- 2024年6月2日(日)
時 間: 11:00-18:00( 金・土は20:00まで開館)
*時聞は変更する場合があります。
休館日: 月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日休館)、その他館が定める日
会 場: インターメディアテク2階「GREY CUBE(フォーラム)」
主 催: 東京大学総合研究博物館
協 賛: 日立東大ラボ
入館料: 無料
住 所: 東京都千代田区丸の内 2-7-2 KITTE2・3F
アクセス: JR東京駅丸の内南口から徒歩約1分
東京メトロ丸ノ内線東京駅地下道より直結
千代田線二重橋前駅(4番出口)より徒歩約2分
お問い合せ: 050-5541-8600( ハローダイヤル)
国外からは+81-47-316-2772(ハローダイヤル)
展示紹介ページ:http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/id/IMT0273
●画像資料
URL: https://project.um.u-tokyo.ac.jp/redmine/imt/staff/documents/224 より、高解像度画像をダウンロード可能です。ただし、本展示および、『都市』シリーズ展覧会の報道への使用に限ります。
●『都市』シリーズ
なお、前述の『都市』シリーズは以下のとおりです(会期の順)。各展示の詳細は追って、プレスリリース、ホームページ等で告知いたしますのでご期待ください。
関連展示1
名 称: 東京大学×東京タワー
モバイル・ミュージアム『都市 – サウンドスケープ』
会 場: 東京タワー メインデッキ1F
主 催: 東京大学総合研究博物館
特別協力:株式会社TOKYO TOWER
協 賛: アンテナ技研株式会社、コンピュータ・システム株式会社
会 期: 2024年5月10日(金)− 7月15日(月)
時 間: 東京タワーの営業時間に準じます。
休館日: 年中無休
入場料: 東京タワーメインデッキまでの展望料金で体験頂けます。
ホームページ: https://www.tokyotower.co.jp/
関連展示2
名 称: 特別展示『都市 – アーケオロジー』
会 場: 東京大学総合研究博物館本館
主 催: 東京大学総合研究博物館
会 期: 2024年5月31日(金) −
時 間: 10:00 – 17:00
休館日: HP開館カレンダーをご確認ください。
入場料: 無料
ホームページ: https://www.um.u-tokyo.ac.jp/
関連展示3
名 称: 特別展示『都市 – スマートシティ トウキョウ2030』
会 期: 2024年7月1日(月) −
会 場: 東京大学大学院情報学環B2F展示室
主 催: 日立東大ラボ
協 力: 東京大学総合研究博物館
入場料: 無料
住 所: 文京区本郷7-3-1
ホームページ: https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/facilities/daiwaubiquitous/