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この度、JPタワー学術文化総合ミュージアム「インターメディアテク」では、開館十周年記念事業の一環として、特別展示『魚学コトハジメ』を開催する運びとなりました。本展示は、「インターメディアテク博物誌シリーズ」の第11回となります。
日本において、近代的な魚類学は明治時代初期にドイツの動物学者であるフランツ・ヒルゲンドルフ(1839−1904)やアメリカの魚類学者であるデイビッド・ジョルダン(1851−1931)などのいわゆるお雇い外国人により導入されました。その後、帝国大学理科大学動物学科(現在の東京大学理学部)の教授であった箕作佳吉(1858−1909)の弟子であり、サバ科魚類やクルマエビ属の甲殻類を中心に水産上重要な海洋生物の分類学的研究を進めた岸上鎌吉(1867−1929)および日本産魚類の網羅的な分類および生物地理を網羅的に研究した田中茂穂(1878−1974)などの活躍により、日本人研究者が主導する魚類分類学が発展してきました。彼らの研究は当時謎に包まれていた日本周辺海域の魚類相を詳らかにするものであり、その報告の数々は彼らの現役時代からおよそ100年が経過した現在も魚類学研究の基礎として役立てられています。
本展示では、東京大学総合研究博物館が所蔵する描画資料から、岸上鎌吉による日本産サバ科魚類の分類学研究および比較解剖学研究に用いられた図を中心に、掛図16点、論文原図12点、および巻物1点を展示します。展示の中心となる掛図は岸上の報告したサバ科魚類の全身図が描画されたものであり、全身の輪郭から体を覆う鱗や鰭条(各鰭[ひれ]の膜を支持する骨格)が極めて精緻かつ正確に描画され、リアルな存在感とともにその種たる特徴を詳らかにしており、その彩色は生鮮時の瑞々しい色彩を容易に想起するものとなっています。また、これらのうち今回の展示の予備調査にあたって初めて存在が明らかになった、岸上が新種記載したスマ属の一種である「ユーティヌス・リネアトゥス」は、これまで学名の基準となる標本が行方不明とされているものであり、すなわちこの図が標本の代わりに担名タイプとなる、学術的にも高い価値をもつ描画資料です。また論文原図としてまとめられているサバ科魚類の解剖図は、骨格系・筋系・血管系をレイヤー的に分けて精緻に描画されており、当時の解剖学のレベルの高さを示すものとなっています。
明治から大正時代という日本における科学の黎明期に作成され、魚類の多様性および体の構造を理解するために精緻に描画された資料の数々は、科学的な価値もつにとどまらず、写実的な絵画として魚類の肉体美への関心をひきつけてやみません。当時の魚類学者たちがどのように魚と向き合い、そしてそれを表現しようとしたか、その一端をこれらの資料を通じて想起していただけますと幸いです。
●本展覧会の特徴
-日本魚学の黎明期の資料
-魚類学研究の基礎
-分類の基準となる描画資料を含む
-解剖学の資料的価値と美術的価値を併せもつ図
●基本情報
名 称:インターメディアテク博物誌シリーズ 〈 11 〉
特別展示『魚学コトハジメ』
会 期:2023年9月26日(火)から2024年2月18日(日)
時 間:11:00 − 18:00(金・土は20:00まで開館)*時間は変更する場合があります
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日休館、ただし12月18日、25日は開館)、年末年始、その他館が定める日
会 場:インターメディアテク2階「GREY CUBE(フォーラム)」
主 催:東京大学総合研究博物館
入館料:無料
住 所:東京都千代田区丸の内2-7-2 KITTE2・3F
アクセス:JR東京駅丸の内南口から徒歩約1分、東京メトロ丸ノ内線東京駅地下道より直結、千代田線二重橋前駅(4番出口)より徒歩約2分
●展示紹介ページ
http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/id/IMT0268
●お問い合わせ先
03-5541-8600(ハローダイヤル)
国外からは+81-47-316-2772 (ハローダイヤル)