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RESEARCHERS COLUMN

ミュージアムとジェンダー(5)
Museum and Gender 5

 近年、自分が展示企画に携わるときは、どんな展示であっても、ジェンダーの視点を取り込むことを意識している。特別展示『台湾蘭花百姿』では、企画の初期段階で、ミュージアムとジェンダーの問題について、台湾の国立歴史博物館の共同キュレーターと話したことがあった。本展示にて、東京大学コレクションから展示物を選定したなかでは、現代の標本図作家である中島睦子さんの『日本ラン科植物図譜』原図が、唯一の女性による仕事である。しかし、中島さんが女性だからこの展示物を選んだわけではない。「台湾の蘭の博物誌」という展示テーマに合致した資料で、その図が優れているからこそ、多くの人に紹介したいという考えが先にあった。その一方で、本展示で取り上げた、日本による台湾統治時代を中心とした東京大学コレクションにはどうしても男性の名前ばかりが並ぶなかで、中島さんという女性の存在が本展示に現れていることの意味は、ジェンダーの視点から、やはり強調しなくてはならないと考える。台湾の国立歴史博物館のコレクションから本展示のために選ばれた美術作品のなかに、大正6年に台湾に生まれた柴原雪の《静物》がある。私が国立歴史博物館の常設展示室にて、洋蘭のシンビジウムが描かれている作品として偶然目に留め、それを共同キュレーターに伝えたところ、台湾美術史上の重要な女性画家を本展示に加えることができる発見だと言われた。ちょうど最終的な展示物候補を日台キュレーターでまとめつつあった段階にあり、柴原作品を展示リストに追加することができた。明治40年に台湾に生まれた陳進の《春蘭》(写真左)は、当初から展示リストに上がっていた国立歴史博物館の中心的コレクションの一つである。陳進は、帝展に台湾女性として初入選を果たした画家として知られる。図録の編集中に、共同キュレーターより、国立台湾美術館所蔵の陳進作品に蘭を描いているものが3点見つかったとの知らせがあった。すでに図録構成をほぼ固めた段階ではあったが、台湾美術史上の重要な女性画家である陳進の蘭の作品であれば載録すべきであるという意見はお互いに一致した。柴原・陳もまた、女性画家の作品だからという理由だけで選定したわけではないが、女性画家に注目してほしいというジェンダーの視点を含んでいる。中島さんのラン科標本図と柴原・陳作品を含む「国立歴史博物館の蘭」の映像は、東京展では、会場の中心に位置するパート4「台湾蘭と自然・芸術・人間」で紹介している。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada

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