東京大学総合研究博物館と国立歴史博物館(台湾)の協働による特別展示『台湾蘭花百姿 − 東京展』が2025年2月15日に開幕した。本展示では、東京大学コレクションから「台湾の蘭の博物誌」を伝える自然史から文化史までのさまざまな資料を選定し、公開している。パート1「⽇本⼈植物学者による台湾ラン科植物調査」では、田代安定、早田文蔵、瀬川孝吉の3人の植物学者を中心に、日本統治時代(1895−1945年)に、日本人植物学者らが台湾で採集した植物標本を紹介している。山中や渓谷を含む台湾全島調査に従事した植物学者らによる標本採集には、熱意なくしては実現し得ない、今日では計り知れぬ多くの困難が伴ったことだろう。標本と並んで注目してほしいのは、植物図譜である。早田文蔵が著した『臺灣植物圖譜』全10巻のなかから、本展示で取り上げたラン科植物の図は、画家の速水不染が原図を手がけている。小石川植物園にて、台湾から持ち込まれた標本をつぶさに観察してその特徴を描き留める仕事にあたった速水は、標本採集のプロセスに想いを馳せ、それに対する敬意と自分の仕事への自負心を抱いていたことが彼の回想録からわかる。標本や図譜を目の前にして、植物学者と植物画家の息吹を感じることは、パート1の展示鑑賞の醍醐味ではないだろうか。
寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada