JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク

特別展示『測地の近代――伊能圖からリモートセンシングまで』

2017.04.14-2017.09.03
GREY CUBE

 東京大学の有する「至宝」のひとつに、伊能忠敬(1745-1818)の測量に基づいて作成された八舗組日本地圖「大日本沿海輿地全圖中圖」がある。しかし、そのうち「関東部」の所在が現在も確認されておらず、長く不完全なままになっていた。そのこともあり、デジタル画像処理技術が長足の進歩を遂げた1990年代には、時代を先駆けるかたちで初のデジタル画像化がなされ、別ヴァージョンの伊能圖で「関東部」を補い、全圖復元が実現した。
 デジタル画像処理技術がより身近なものとなった近年では、国内外に散在する「伊能大圖」、「伊能中圖」の諸異版、「伊能圖」の画稿史料、さらにはそれらの遺産の上に成立したと考えられる「官版実測日本地圖」等々の画像データの蓄積が進み、測地法、精確度、作圖法、転写法について、相互比較研究も目覚ましく進化してきている。  
 総合研究博物館では、近代地圖を核とする包括的なデータベース「学術標本グローバルベース」の構築を館の基盤事業の一つとしてきたという経緯もあり、今般、「伊能圖」以降の近代地圖における工人技術から、航空写真や衛星写真のデジタル地図を可能にしたリモートセンシング技術まで、測地法の史的な展開をいまいちど振り返ってみることにした。

主 催:東京大学総合研究博物館

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 空を飛ぶ夢を見たことがあるだろうか。幼少期にそのような思い出のある方は少なからずいるに違いない。大人になると、物事の分別がつき、現実をわきまえるようになり、次第にそのような夢は見なくなる。あるいは、航空機の発達した現代、空を飛ぶということはありふれたこととして、興味もなくなる。しかし、中には、そのような夢をずっと見続けた人がいる。
 空を飛ぶことと、空を飛ぶ夢を追いかけるということは、似ているが異なる。空を飛んだ人物といえば、ライト兄弟(1867-1912, 1871-1948)やリンドバーグ(1902-1974)などを思い浮かべるかもしれない。空を飛ぶ夢を追いかけた人物といえば、カッシーニ一族、伊能忠敬(1745-1818)、これらカルトグラファー(地図製作者)と呼ばれる人物たちを称するならば、航空機よりずっと高いところへ舞い上がっていった精神が、遥か彼方の下方に見る世界の形を、科学的な洞察と方法論によって導出しようとする人たちと言える。
 伊能忠敬は地球の大きさを知るべく街道を歩き伊能図を完成させた。その制作過程から考えれば、この地図は地上の街区を表しており、人工衛星NOAAが撮影した夜間の日本列島の画像と酷似している。ジョヴァンニ・カッシーニ(1625-1712)がフランスから世界に旅立つ神父たちに望遠鏡を持たせ、彼らが計測した各地の経緯度を大きな地図にプロットした。この地図は現在は残っていないが、おそらくアフリカやアジアの各都市が、NOAAの夜間の世界画像のように浮き上がっているものだったに違いない。カルトグラファーはリンドバーグのように空を飛ぶことはないが「測地」という目をもって、世界の灯を視ていたのだ。
 現代、航空機や人工衛星を用いた「測地」技術が発達している。リモートセンシングと呼ばれるものであるが、伊能忠敬の見た世界、あるいは、その他のカルトグラファーや、現代のリモートセンシングが見る世界の形を、東京大学等が保有する貴重な資料と画像データによって可視化する。

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