2017.01.31-2018.01.21
SPECOLA
第五回ケ・ブランリ・トウキョウでは、マグレブ及び中近東の宝飾品コレクションを展示します。
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アフリカ大陸北岸マグレブに広く展開するベルベル人、サハラ砂漠からアラビア半島まで広く遊牧するベドウィン、トルコからイラク北東部に広く分布するクルド人など、アフリカ大陸北岸から中東に至る乾燥地帯に暮らす民族の伝統的な文化は、湿潤な気候に生きるわれわれ日本人にとって、もっとも縁遠い世界と言えるかもしれない。実際のところ、考古や宗教の遺物でもなければ、人類学や動植物学や地質学の標本でもない。銀、貴石、エナメル、ガラス、珊瑚、古銭など、彼地にあって貴重とされる材料が使われているとはいえ、レヴァント=マグレブの伝統的なアラブ社会のなかで創造され、使用されてきた世俗宝飾品を、間近に見る機会は滅多にないのである。これらの宝飾品について、美術品なのか、民族学資料なのか、という詮索は無用である。たしかに、加工技術のあれこれについて、細かく検証すれば、大概のところはプリミティブなものに過ぎない。しかし、素材それ自体の価値を単純素朴に謳い上げる姿勢はどうだろう。現代のわれわれが失ってしまった、おおらかな感覚がそこにあり、それこそ文明の初期発展段階特有の、大きさ、力強さを感じさせずにおかないのではないか。いまやグローバリゼーションの潮流が世界を覆い尽くそうという時代である。砂漠に暮らす女性たちが身につけていた宝飾品は、自らの姿を美麗に飾り上げたいという人の性(さが)のみならず、われわれが生きる世界の、そこにおける価値観の多元性、美意識の多様性を物語ってあまりある。
西野嘉章
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近東とマグレブの女性用装身具
富める者も貧しい者も、都会に住む者も田舎に住む者も、東洋の女性は宝飾品で身を飾ることを好む。装身具は優美に女性の頭や耳を飾り、胸を強調し、腕や足首の線を描く。このように装飾品を尊ぶ嗜好は古代まで遡る。さまざまな技法を駆使し、見事な手技で作られた、幾多もの宝飾品が生み出されてきたことは、近東やマグレブでの多くの考古学発掘が証明している。他に、例えばシリアの隊商都市パルミラの発掘では、たくさんの装身具を身にまとった女性を表象する彫刻が発見されている。
東洋における装身具の総体は非常に種類豊かである。そこには、冠、こめかみ飾り、イヤリング、ネックレス、ブローチ、ブレスレット、アンクレットが含まれる。各種の祝い事、特に婚礼は、女性が自分の所有するすべての宝飾品で身を飾りたてる最大の機会であった。
衣服の上にまとい、肌に直接つけ、時には顔の上に飾る。このような宝飾品のピースの数々は、それを身に着ける女性にとって、単なる装飾品以上のものである。装身具とは、社会的帰属や社会における個人の立場を目に見えるかたちで表す徴なのである。それらの形状や素材によっては、宝飾品は神秘的な力を授けられる。装身具をかたちづくるそれぞれの要素、すなわち手、魚、三角形、蛇、三日月、青真珠や赤真珠は、女性をあらゆる病から守り、幸運を恵み、そして何よりも、地中海沿岸で信じられているのと同様に、邪眼を遠ざける。
装身具に対する女性の執着は、それがもたらしてくれる保障にも関係する。宝飾品は人生の気まぐれな出来事に対して、彼女たちを守る保険となる安全な投資である。新郎の持参金としてもたらされた宝飾品は、たとえ離婚した場合でも女性の所有のまま留まる。
イヴ・ル・フール
企画構成:イヴ・ル・フール(ケ・ブランリ・ジャック・シラク美術館コレクション部長)
後援:クリスチャン・ポラック氏+株式会社セリク
ケ・ブランリ・トウキョウについて
世界中にはさまざまな文明が生み出した力強く不思議な形態が存在する。その多様性は驚くばかりであるが、これらを日本で目にする機会は少ない。そこで、パリのケ・ブランリ・ジャック・シラク美術館のコレクションから選りすぐりのアイテムをここに展示し、ひとつの邂逅の場として設えた。この展示は、周囲の東京大学コレクションと時に共鳴し、時に対立することで、見る者に対し、人類が大いに関心を寄せるべき問題を投げかけるだろう。本プロジェクトはケ・ブランリ・ジャック・シラク美術館とインターメディアテクとの新たな文化的・学術的協働からなる。これによって、フランス国立ミュージアムが東京の中心に長期的活動拠点を獲得することになった。人々がもつ既存の世界観の転換を図るべく、アフリカ、アジア、オセアニア、南北アメリカの諸地域から象徴的なアイテムを選定し、定期的に展示更新を行う予定となっている。本拠点がすべての文化、時代、領域の交叉する創造的結節点として機能するために、ケ・ブランリ・ジャック・シラク美術館とインターメディアテクはいままでにない方法論を共有し、分野横断型のミュージアム活動を推進していく。
企画:東京大学総合研究博物館+ケ・ブランリ・ジャック・シラク美術館
後援:クリスチャン・ポラック氏+株式会社セリク
ケ・ブランリ・ジャック・シラク美術館
ケ・ブランリ・ジャック・シラク美術館は、2006年6月パリに開館した。アフリカ、アジア、オセアニア、南北アメリカ美術を展示していたルーヴル美術館の「パビリオン・デ・セッション」を前身とする。ジャック・シラク元大統領(1995-2007年)が建設計画を推進し、建築家ジャン・ヌーベル(2008年プリツカー賞受賞)が設計を担当した。西洋中心主義を脱し、アフリカ、アジア、オセアニア、南北アメリカの芸術や文明に対し、文化的・宗教的・歴史的影響が交差した複眼的な視点から、それらにふさわしい評価や解釈を行うことに活動の中心を置く。学術的・芸術的対話のための場所として、また、市民・研究者・学生・現代芸術家をつなぐ交流拠点として、さまざまな展覧会、コンサート、催し物、シンポジウム、ワークショップ、上映会を定期的に開催している。
ケ・ブランリ・ジャック・シラク美術館 公式HP
写真© musée du quai Branly - Jacques Chirac, photo Claude Germain