収蔵展示室Studioloのデスクには、少なくとも一体の動物標本が載っている。その年の干支にちなんだ標本である。幸い、干支の多くは標本があるので、剥製か骨格標本を置くことができる。だがトラの標本はないので、トラツグミ(鳥類)の剥製を寅ということにしておいた。ちなみに生物で「トラ」や「Tiger」とつくのは、だいたいトラジマ模様からつけられている。トラツグミも黄色と黒のウロコ模様があり、遠目にはトラジマのようにも見える。さらに困ったのは今年、辰年だ。タツノオトシゴがあれば完璧なのだが、これまた標本がない。しばらく考えて、トビトカゲにお出まし頂いた。トビトカゲはインド南部と東南アジアに分布し、胴体側面に皮膜を広げて滑空する。この「翼」は長く伸びた肋骨で支えられており、普段は胴体に沿って畳まれている。前肢・後肢に加えて、独立した翼を持つ脊椎動物は、おそらくこれだけだ。そういう意味でも背中に翼が生えたドラゴンぽい。実際、属名はDoraco、ラテン語でドラゴンのことである。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Hajime Matsubara