二〇二二年四月にインターメディアテクは開館から十年目のサイクルを迎える。館の立ち上げにさいしては、本郷キャンパス内にある博物館本館と小石川植物園内にある分館から、相当量の標本・資材を丸の内の施設内へ運び込んだ。明治の創学以来蓄積されてきた学術遺産のなかで、多くは用無しと見なされてきた物品群である。直近の役割を終えたモノに、展示公開を通じて、新たな息吹を吹き込みたい。そうした思いに導かれての創設構想であった。大雑把な数字であるが、開館時には千七百点ほどの標本が展示に供されていた。延べ床面積にして三千平米を超える施設ということで、バックヤードにはまだ充分な余力があった。仮に収蔵品が増えたとしても、スペースの狭隘化が深刻になるのは、かなり先のことだろうと想定されていた。まさか館内のあちこちに学術標本が溢れかえるような事態が、これほど早く訪れようとは、思ってもみなかったのである。しかし、現実は違った。一万枚を優に超えるジャズレコートのコレクションにはじまり、阿部正直伯爵が残した膨大な気象学関連コレクション、古い蓄音機百五十台、「博士の肖像」の絵画・彫刻約六十点、大量の古い額縁、エジプト彫刻断片、リンガヨニ、鳥の剥製、現代美術記録フィルム二十万点など外部からの寄贈品をすべて受け入れ、かてて加えて、学内諸部局から管理換された古い什器類、新たに入手、製作、購入された標本で、瞬く間に場所が埋まってしまった。いまや館外の複数ヶ所に収蔵スペースを確保せねばならぬ厳しい事態に立ち至っている。寄贈の申し出は館にとって、実に有り難い話である。実際、これら新規収蔵資料の多くはいまも展示等に役立てられている。各種の事情でいまだ閉塞感から脱却できずにいるミュージアム事業に新たな展開をもたらす「起爆剤」。そうした位置づけで博物資源の蓄積を今後も積極的に続けてゆきたいと思う。コロナ禍のもたらした「新たな日常」を生きつつ、今年も謹賀新年。
西野嘉章(インターメディアテク館長・東京大学総合研究博物館特任教授)
Yoshiaki Nishino