新型コロナウイルスの感染拡大で出版の見通しが立たなくなってしまった本がある。出版社が決まり、頁割付けも終わった。外装を含む全体のヴィジュアル構成も画定し、文字校正も済んでいるが、社会生活のメカニズムがほぼ全的にダウンして、刊行がいつになるのか見当もつかぬ事態に立ち至ってしまった。というわけで、溜まりに貯まったフラストレーションを解放する方法はないか。そこでカバーの試案をここに掲げてみることにした。今日普通に流通している上製本では、本体の上にブックカバーを掛け、その上に惹句を掲げた腰帯を巻く形式のものが多い。しかし、私はそのスタイルに首肯できない。カバーの上に腰帯をかけるのは、どう見ても「屋上屋」を重ねることになる。スマートでない、と思う。拙著『雲の伯爵——富士山と向き合う阿部正直』で挑戦してみたいのは、カバーと腰帯をひとつに統合する形式である。様々な制約があり、実現は容易でない。とはいえ、資源と経費の両面で節約が可能な形式は、試してみる価値がありそうに思うのだが。
西野嘉章(インターメディアテク館長・東京大学総合研究博物館特任教授)