JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

インターメディアテク・レコード・コレクション(12)
狂気のハープシコード

 エレキギターの鬼才ジミ・ヘンドリックスが南部の教会でゴスペルを弾いている姿を想像してほしい。ステンドグラスは破れるかもしれないが、参拝者のなかで未曾有の熱狂が生まれるだろう。今年80周年を迎える名レーベル「ブルーノート」が1941年に出したSP盤19および20号を聴いた時に、その情景が浮かんだ。これは、1939年1月に同レーベルの初録音を行ったピアニスト、ミード・ルクス・ルイス(1905-1964年)がチェンバロを弾いている録音だ。一斉を風靡したピアノ奏法「ブギウギ」の特徴を活かして、ルイスはレコード4面に亘って「主題による変奏曲」を即興で展開している。我々の記憶のなかでピアノと結びついているブギウギを他の鍵盤楽器で奏でることによって、なんとも言えない違和感が生じる。同時にルイスはチェンバロから前代未聞の音を引き出している。珍しい楽器をバンド編成に取り込むジャズメンの「多楽器主義」は、チェレスタを弾くモンクや100以上の楽器をステージに持ち込んだアート・アンサンブル・オブ・シカゴを通じて、現在も受け継がれている。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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