特別展示『石の想像界』の会場には、三つの「石器」が並んでいる。ひとつは、縄文時代前期のものと思われる、埼玉県ふじみ野市川崎遺跡で発掘された、正真正銘の磨製石斧である。もうひとつは、木製の手のマネキンに樹脂製の石器レプリカがはまっている彫刻、マチュー・メルシエの新作『アカデミア』である。三つ目は、人の右手が磨製石を延々と回している、ループ映像作品。ガブリエル・オロスコの有名なビデオ『丸石と手』である。だれもが片手にスマートホンを握っている時代に、石器を握るという原始的な仕草に改めて注目する作品が多く見受けられる。しかしこれらの作家は、いったいどのような「石」をもとにこの作品を考えたのか。「アート」と「アーティファクト」が混在する展示会場では、人類にとっての石の機能が問われるだけではなく、普段ホワイトキューブで発表される現代美術作品が人類学的なテーマを取り上げるうえで、どのような空間、展示方法、文化的文脈を前提とするのか、改めて考える機会となる。
大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)