2023年10月25日に、インドネシアのバンドン工科大学アート・デザイン学部長のアンドリアント・リクリク・クスマラ教授をインターメディアテクに迎え、「インドネシアにおけるミュゼオグラフィー – インドネシア・ナショナル・ギャラリーの発展と実践」と題した特別講演をしていただいた。1987年に開館したナショナル・ギャラリーの活動の展開をこれまでずっと主導してきたリクリク先生のお話のなかで、特に印象に残ったのは、国立機関であるナショナル・ギャラリーは政治体制が変わるたびにその影響を強く受けてきたという点である。インドネシアのプライベート・ギャラリーが増加した2000年代は、ナショナル・ギャラリーが改革の停止を余儀なくされた時代であり、こういった公私の文化機関の共鏡から、今日、世界的に注目されるインドネシアのアートシーンの発展の背景がよく理解できた。リクリク先生はその動向を見て、バンドン工科大学にアートマネージメントとキュレーターシップのマスターコースを2013年に設立しており、その修了生たちがアートシーンのさらなる発展に寄与している点も興味深い事実であった。リクリク先生によれば、現在、ナショナル・ギャラリーでは年間に18本もの展覧会が開催されており、その数の多さの理由には外部資金による企画の実施が挙げられる。ナショナル・ギャラリーに外部資金を入れることについては長らく批判があり、それが実施されるようになった今も、政府予算による展覧会と比べて、外部資金による展覧会の開催期間は2週間程度と非常に短い制約下にある。そのなかで、リクリク先生は自身が外部資金を得て企画した、画家スリハディ・スダルソノ(Srihadi Soedarsono)のいくつかの展覧会を事例として紹介しながら、インドネシア社会の歴史を描いた重要な美術家を取り上げた一連の展覧会はナショナル・ギャラリーとして大事な活動であった、そして展示開催期間だけでなく設営準備期間がどんなに短くてもナショナル・ギャラリーとしてのクオリティが担保された展覧会を行うことが重要であると話していた。ナショナル・ギャラリーとはいかにあるべきかをミュゼオグラフィーの観点から改めて考えさせられる事例とコメントであった。リクリク先生の提供による最新情報では、教育文化省傘下の機関であるナショナル・ギャラリーは、2024年に新たな体制と建物を獲得し、2025年にはその準備のための臨時休館に入る予定であるという。今後の展開にもぜひ注目していきたいと思う。
寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada