先日、ある農地でカラスを観察していた。ミヤマガラスの集団と、さらに柿に群がるハシブトガラスもいたのだが、突然、カラスたちが大騒ぎを始めた。単に騒いでいるのではなく、サッと舞い上がったり、集団で狭い範囲を旋回したりしている。何か危険な相手でも近づいたのか? だが騒ぎは一向に収まらない。これは妙である。カラスの様子を見る限り、どうやら脅威は去っていない。となると…… 捕食者がそこを動けない、つまり、今まさにカラスを襲って仕留めているのでは? そう思って見えるところまで移動した。段差の上に止まった数羽のハシブトガラスが鳴きながら下を覗き込んでいる。あの下か。伸びた二番穂の間に、褐色と黒が見えた。弱々しく動く黒はカラスだろう。褐色の方がバサリと翼を開き、黒い横斑の並ぶ風切羽が見えた。それは若いオオタカだった。この時、私たちはすぐ近くにいたのに襲撃の瞬間に全く気付かなかった。その完璧な奇襲こそが猛禽の真髄であり、獲物にとっての恐ろしさなのだと痛感した。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Hajime Matsubara