嘴状水差し型土器の中には注口がたいへん長いものもある。写真の作品は先端が鋭くとがっていることもあって、まさしく「嘴状」とよぶにふさわしい。では、そもそも、どんなトリを模して作られたのだろうか。オリエントの宗教世界に登場する、嘴が長いトリと言えば、古代エジプトのトート神が思い浮かぶ。そのモデルはトキである。末期王朝期にはトキのミイラが大量に作られた。しかし、嘴状水差し型土器の出現はエジプト末期王朝期よりもはるかに古いし、エジプトにいたのはアフリカトキであって、それらがイラン北部に生息していた証拠は得られていない。また、月にかかわるトート神の嘴は三日月状に垂れ下がっているが、ペルシャの注口は直線的である。こうしたことから、直接の関係があるとはみられていないのが現状である。だが、知己の中東鳥類考古学者に聞いてみると、北イランにも、少なくともブロンズトキという仲間がいたそうである。翼が光沢をもった赤銅色をしていることから、そう呼ばれるのだという。また、ブロンズトキは近年、日本列島にも飛来するようになり注目されているらしい。トキにもさまざまいて、さらにまた別の仲間が日本の天然記念物(Nipponia nippon)に指定されていることは周知である。一体、トキというトリは、どんな経緯をもってアジアの東西で人々を魅力してきたのだろうか。古代ペルシャの土器との関係はわかっていないのだが、たいへん気になっている。
●写真6 東京大学の調査団が発掘した注口部が長い嘴状水差し型土器(レプリカ。実物はイラン国立博物館蔵)
西秋良宏(インターメディアテク館長・東京大学総合研究博物館館長/教授)
Yoshihiro Nishiaki