JP Tower Museum INTERMEDIATHEQUE
HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

オリエント考古美術の話(4) ガラス容器と交易
Glass Vessels and Trade of the Ancient Orient

 ガラス製作のルーツは、ファイアンスという半分、土器のような焼き物にある。紀元前5千年紀には登場した。今で言うガラスに近い製品が現れたのは前3千年紀である。後に、ローマ時代になって吹きガラス技法が開発されると製作できる品物の幅は一気にひろがった。展示中のガラス製品は、そうしたガラス工芸の発展が展開したオリエント地域、特に地中海沿岸のローマ時代以降の作品である(写真)。限られた地域でしか製作できないのだから奢侈品であることが多く、交易用のアイテムとして重宝された。近年では、ガラス製品を先端的な考古科学分析手法により解析し、その流通をさぐる研究がさかんにおこなわれている。インターメディアテク展示標本についての研究例はないのだけれど、日本列島にまで運ばれてきた作品があったことは前回、書いたとおりである。そこで話題にした正倉院白瑠璃碗に似たササン朝ペルシャのガラス碗が、より古いローマ時代の碗と比べて、ずいぶん分厚くがっしりしていたことにお気づきだろうか。シルクロードの交易をふまえた長距離輸出のためという意見があるほどである。そうかもなあと思う一方、意図して分厚い作品を作ったのか、分厚い作品だけが遠くまで運ばれ得たのか。その証明は難しかろうとも思う。
●写真4 展示中のガラス容器

西秋良宏(インターメディアテク館長・東京大学総合研究博物館館長/教授)
Yoshihiro Nishiaki

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