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RESEARCHERS COLUMN

ミュージアムとジェンダー (3)
Museum and Gender 3

 特別展示を書籍化した『蘭花百姿−東京大学植物画コレクションより』(東京大学総合研究博物館編、2022年5月、誠文堂新光社)の巻末資料「主要人物略伝」には、28人の名が挙がる。最も多いのは植物学者の16人であるが、彼らの研究活動を支えた植物画家9人と植物採集者1人についても取り上げている点に注目してほしい。本書は、1877(明治10)年に創学した東京大学における植物学研究の傍らで制作された植物画を中心に、明治期から現代まで、東大コレクションの植物標本、図譜・書籍、絵葉書、写真等により蘭の博物誌をたどることを主旨とした。本書で紹介した植物画や植物標本というモノからは、植物学者を中心に正史的に語られる植物学史や大学史では脇役や縁の下の力持ちとなり、ほとんど登場しない植物画家や植物採集者の姿を浮かび上がらせることができた。モノを基本とするミュージアムの重要な役割の一つは、こういったところにあると思う。一方、同じく巻末資料の「人名索引」にあがる数をカウントしてみると、全部で184人のうち女性は9人と圧倒的に少なく、もし本企画の時間軸を現代までとしなかったら、登場する女性の数はゼロであったかもしれない。写真は、本書で紹介したラン科植物標本(1975年採集)と写真資料(1954年撮影)に貼付された標本ラベルで、東京大学理学部の技官として研究をおこない、1960年代の東大ヒマラヤ調査隊にも隊員として参加した黒澤幸子(1927−2011)と、小石川植物館で植物栽培を担当し、後に植物学教室教授の山崎敬(1927−2007)と結婚した木村冨佐子(1927−)の名前がみえる。社会の多様性を可視化していくために、ミュージアムがジェンダーの視点をどのように取り入れていくのか。モノが伝えている情報を丹念に拾うとともに、時にはモノの背後に存在する人々や状況を描き出すことも必要だろう。また、正史的な視点からは見落されてしまうようなモノ自体を掘り起こしていくことも求められる。このやりがいのある課題は引き続き目の前に大きく聳えている。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada

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