20世紀の公共建築を集めた模型を製作した。縮尺1/300の模型18点を3Dプリンタで出力し、都市の街並みのように集合的に配置した。竣工年順に作品と特徴を列記する。1.ウィーン郵便貯金局:半透明のガラスで覆われた新世紀の光学的空間。2.ドイツ工作連盟展ガラス・パビリオン:ガラスの多面体のクーポラを頂く小さな美の神殿。3.ストックホルム市庁舎:伝統素材と歴史様式で見る20世紀の北欧ロマンティシズム。4.バウハウス校舎・デッサウ:カーテンウォールによる建築外装の非構造化と透明化。5.ストックホルム市立図書館:知のミクロコスモスを象徴する壮大な書籍の円環。6.ルサコフ労働者クラブ:ホールの空間傾斜と多視点性を体現した構成主義の外観。7.バルセロナ・パビリオン:ミニマルな空間構成と壁/床材の緻密な肌理。8.ダンテウム:『神曲』の空間的解釈−−百柱の森から地獄・煉獄・天国の間へ。9.広島平和記念資料館:被災地の再建計画から始まった戦後の日本建築の出発点。10.ロンシャンの教会:量塊的な躯体を多様な光で充たした「言語化しがたい空間」。11.ルイジアナ近代美術館:海と森と建築と美術品が共生する理想郷。12.カステルヴェッキオ美術館:歴史的建造物の保存と転生。13.大分県立大分図書館:成長する建築を規模とスケルトンから構想。14.キンベル美術館:「沈黙と光」の思惟から導かれた奇跡の空間。15.ヘドマルク博物館:12世紀と18世紀の遺構の上に重ねられた20世紀の博物館。16.ラ・ヴィレット公園:点・線・面のシステムをモンタージュした都市公園。17.ベルリン・ユダヤ博物館:失われたアイデンティティの「空洞」が建築を貫通。18.那珂川町馬頭広重美術館:木造建築に限らない「木の建築」の可能性を提示。以上で取り上げた建築の方向性として、自然との共生、保存と転生、空間の自律、システムの重層、透明性と明るさ、天然素材の評価といった特性が見えてくる。「20世紀の建築」は本館の特別展示『空間博物学の新展開—UMUT SPATIUM』で展示中である。
松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)
Fumio Matsumoto