当館の小石川分館は耐震基礎診断の結果、耐震性能が不十分である可能性が判明し、2021年1月から休館中である。重要文化財である分館建物の現状を記録し、見ることができない展示を発信するために、3次元バーチャル・リアリティ(3DVR)によるデジタル・コンテンツの製作が行われた。完成した3DVRは特別展示『空間博物学の新展開/UMUT SPATIUM』のウェブサイトで公開されており、ユーザが自ら操作して建物内の空間を移動し、展示を観覧することができる。本館の特別展会場では、その操作をキャプチャした記録動画を上映している。3DVRの撮影には赤外線3Dセンサを備えた全方位型の高解像度カメラが使われ、小石川分館の内外の多数の場所で撮影が行われた。池を飛びこえる移動、高所からの俯瞰見渡し、屋根の小屋組の探索など、通常の来館では体験できない視点も含まれている。3DVRのコンテンツは3次元データ(メッシュ、点群、画像データ)を統合してクラウド上にアップロードしたURLからなる。センサで測距した3次元の空間情報が取得されており、建築や展示を空間的に再現するだけでなく、身体動作をともなう自由な空間移動を体験することができる。また写真や映像、キャプション、ハイパーリンクなどの付加情報を空間内に埋め込むことが可能であり、コンテンツのプラットフォームとして活用できる。博物館における新たな展示表現の可能性に期待できる。(3DVR製作:徳永雄太氏/ARCHI HATCH)
松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)
Fumio Matsumoto