JP Tower Museum INTERMEDIATHEQUE
HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

『Intermedia』発刊記(5)

 第四号は「かたちとちから」を特集テーマとするものとなった。各種学術標本のプレゼンテーションの仕方に焦点を当てたいと考えたのである。収蔵庫にストックされた学術標本、なかでも自然誌系の学術標本は、展示具との組み合わせ次第で、「研究資財」でしかないものにもなり、また「アート作品」に近いものにもなる。要は、オブジェをより魅力的なモノにみせるにはどうすれば良いのか、ということである。また、その「見せる」方法を、どのように出版物のエディトリアルに反映させたら良いか。それが編集サイドの問題意識であった。この号の三つ折りの頁には、東南アジアに分布するトカゲの仲間で、最大の大きさを誇る「ミズオオトカゲ」の剥製が原寸大で印刷されている。誌面を仔細に観察すると、画面の明るさは充分なものながら、立体オブジェ特有の陰が、どこにも落ちていないことに気づかされるに違いない。このことは、別な頁にある、古い昆虫標本箱を撮った写真をみると、よりいっそう確かなものになるはずである。普通、虫ピンで固定された昆虫標本を撮影するにあたって、型どおりのライティングを施すと、どうしても陰が生じ、このようにはならない。オーバーヘッド・スキャナーを使ったデジタル撮影写真ならではの効果と言うべきか。スキャナーは高性能な撮影装置すなわち「カメラ」である。加えて、内蔵されているライティング機構が単焦点型でなく、移動焦点型であり、被写界深度のレンジが広いという特徴もある。実際、「ミズオオトカゲ」程度の厚みのモノであれば、パンフォーカスで撮影できる。当初はわれわれも半信半疑であったが、創刊号で簡単な実験的フェイズを経験してからは、様々な局面でオーバーヘッド・スキャナーを利用するようになった。第四号の発行後、「ミズオオトカゲ」を刷った頁ほか、ヤレ紙を印刷工場から回収し、大型の紙袋をリサイクル制作し、ミュージアムショップのグッズ販売に供した。びっくりする人もいたが、実に評判の良い紙袋であった。

西野嘉章(インターメディアテク館長・東京大学総合研究博物館特任教授)
Yoshiaki Nishino

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