展示企画のため、IMT所蔵標本の一つを調査する必要に迫られた。工学部造船学科旧蔵の船舶模型である。再現されているのは舵、スクリュー軸受周辺の構造だが、それ以上の情報が何もない。舵は後部が丸く突き出し、現代的な形状ではない。軸受は中心線上に1基、後方左右に2基。3軸推進ということになる。模型を残すくらいだから有名な船だろう。最初は戦艦かと思ったが一致するものがない。舵の形から1900年代初期と当たりをつけ、タイタニック号を疑ったが、これも違う。スケールモデルを作れるのだから日本で建造されて設計図が残っていた船か? 調べていくと、1908年竣工の天洋丸級貨客船に酷似するとわかった。同型の天洋丸・地洋丸・春洋丸が建造されたが、春洋丸は舵が喫水線上まで伸びており、少し模型とは違う。残る2隻は軍艦への転用を考え、舵が被弾しないよう喫水線上に出ない構造だ。ということで、この模型はどうやら天洋丸・地洋丸のどちらかである。国産として初めて1万総トンを超え、蒸気タービン機関搭載で計画された画期的な船であった。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)