3月になり、ウグイスの初音を聞いたという声が聞こえるようになった(というか、初音といえばウグイスの声である)。ウグイスは古くから日本人に親しまれている鳥で、もちろん、その鳴き声が「ホーホケキョ」であることも、よく知られているだろう。だが、「ホーホケキョ」という聞きなしは「法・法華経」の意味であり、仏教、特に法華経が日本に普及してからのものである。平安時代には仏教はまだ貴族のものであり、庶民にまで広まるのは早くとも鎌倉時代以降だろう。それまでウグイスはなんと鳴いていたか? 実は平安時代の和歌に「自分で名乗るとは律儀な鳥だ」という意味のものがあるらしい。当時、ウグイスの声は「ううくひす」、つまり「ウーグイス」であったようなのだ。そのつもりで聞けば、「ウー……グイス!」と聞こえなくもない。もう一つ、うぐいす餅の印象からか、ウグイスはもっと緑色だと思われていることが多い。実際はこの標本のように、緑がかった褐色である。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)