外出自粛が要請され、東京駅前が静まり返っていた4月、5月。この時期は鳥たちの繁殖シーズンでもある。カラスも例外ではない。東京駅前、丸の内側には1ペアのハシブトガラスが住んでいる。個体識別はできていないが、おそらく、何年も同じペアがいるのだろう。このペアは毎年営巣しようとするのだが、雛を連れているのを見たことがない。おそらく、どこに営巣しようとも撤去されてしまうからである。駐車違反と同じく、東京の「顔」たる丸の内界隈はカラスの営巣に極めて取り締まりが厳しい。ところが2020年6月30日、私は丸の内南口の換気塔に止まる、3羽のハシブトガラスの雛を確認した。もう巣立ちから3週間ほどたっているだろう。とすると、巣立ちは6月9日頃、産卵は4月15日頃となる。東京駅前が普段の雑踏にお暇していた2ヶ月、巣を見上げる人間がいなくなった隙に、とうとう繁殖に成功したのだ。これもまた「新しい生活」の一つである。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)